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vol.19 お気楽ショートストーリー集裏話(2000.1)

 2000年1月21日〜23日、應典院本堂ホールで売込隊ビーム初の短編集公演「お気楽ショートストーリー集」が興行されたことは記憶に新しい。各方面で、「トバスアタマ以来のヒット」だとか、「宮都謹次の怪演が光った」など、好評を頂いた。
 その上々だった公演の千秋楽本番中に、とてつもない大事件が起きていたことは関係者以外誰も知らないであろう。今回は、その裏話的「大事件」をお伝えしたい。題して…


【作家・横山拓也のイタズラに、座長・山田かつろうマジギレ!もう少しで殺されるところだった】

 
 ここからは当事者、横山拓也の口語体でお伝えします。3本立ての第2話、「地質学者は知っている」で、舞台下手前に穴が空いていたことを覚えているでしょうか。山田扮する「あおぞら」が掘る穴です。毎回、本番前に私はあの穴にイタズラを仕掛けていました。ある日は落書き、ある日は手作り工作人形。芝居中に山田がその穴を掘るわけですが、その時にイタズラを見た山田がどう笑わないで堪えるかを観察していたのです。最終日、私は舞台監督に相談しました。

 「あの穴って僕入れるかな?」

 結果、私は穴に潜むことになりました。照明・三栖春奈氏によって電飾が顔の周りに散りばめられ、穴は塞がれました。ちなみにこの電飾は私の注文ではありません。三栖さんの粋な計らいです。
 

 さて、客入れ時間をあわせると、実に1時間もの間、じっと待ち続けなくてはなりません。身動き一つ取れません。過去の公演で、客入れ中に役者を舞台に出しておくということをしてきましたが、私は別に「すまない」とか「悪かった」など後悔の感情は生れませんでした。意外と楽でした。いや、これはものすごい楽しみが後に待っているという精神的快楽が私の脳を支配していたからかもしれません。ドーパミンという物質が出ていたのかもしれません。この後、山田の怒りの鉄槌が下されるとも知らずに…。


 1話目が始まりました。平台と言われる、舞台の下に組んである土台に潜んでいる私には、舞台上でドタバタする音や、大声で喋るセリフが不快でした。「いいかげんしろ!」と思いました。終盤、支店長役の宮都と夫役の太田がハケ(ご覧になっていない方、わからないと思いますがご了承ください)、間もなく転換です。第2話が始まります。さあ、山田がこの穴をの蓋を外す時がきました。


 私の顔はとうとう舞台下に現れました。「何かあるトン」これまでの経験で山田は察しています。しかし、暗転中なので、何が入っているかは判断できていません。他の役者に影響が及ばないよう、山田は手探りで穴の中の物(横山の頭)をどかそうとします。私の坊主頭を触って、山田は
「草?」と思ったそうです(後日談)。


 私の周りの電飾が光り始めました。暗転の中、山田も私も笑わずにはいられませんでした。必死に笑いを堪える山田。私も客席に気付かれてはいけないので大変です。完全に照明が付き、第2話が始まりました。山田の顔が真っ赤です。私も「これ以上は芝居に支障が出る」と、このイタズラを自粛しようとしました。が、私のそんな気持ちもお構いなしに、電飾はチカチカとクリスマスムードたっぷりに輝いています。「裏腹」とは実にこのことです。
 徐々にその電飾が熱を持ち、予想以上の熱さに居ても立ってもいられなくなりました。「熱い!熱い!」罰が当たったのでしょうか、電飾は私を苦しめます。とにかく、これ以上は自分の顔を山田に見せておくわけにもいかず、引っ込もうと最善の努力をしました。しかし、左へ行けば電飾の熱が、右には箱馬(平台を上げる箱)が身動きを取らせてくれません。辛うじて顔が半分隠れる程度が精一杯でした。このとき、既に山田が怒りに震えていたことに、私は気付いていませんでした。芝居は進みます。モゾモゾと動く私の頭に、勢いよくシャベルが向かってきます。「うわ!」 交わす私。山田が穴を勢いよく掘っています、というよりは、確実に私の頭を狙っています。目つきが普段と違いました。咄嗟に殺意を感じ取りました。「え?マジで怒ってる?」 髪をかするスコップが山田の答えです。「違う!俺だって本意じゃないんだ!電飾のバカ!チカチカしやがって!」と心で何度も叫びました。容赦なく振り下ろされるスコップ。ああ、そのスコップは横山家の実家の庭にあったものじゃないですか。その
スコップで頭を割られたのでは、親に会わす顔がありません。しかし、山田の怒りは頂点に達しています。何でも、おかげで芝居中いくつか間を外したそうです(後日談)。


 高校時代からの友人、山田かつろう。高1の時にはサッカー部の中で落ちぶれていく山田を励まし、高2の時はクラスメイトとして体育館に放火した山田を必死でかばい、高3の時は一緒に体育委員を務め、山田を見事に更生させた、あの友情の日々が崩れていきます(一部思い出に脚色有り)。


 電飾もようやくスイッチが切られ、私も舞台下からの脱出に成功しました。「かつろう怒ってるかなぁ」私の脱出後第一声は不安に満ち満ちていました。
 第3話「ワナナワ」を観ていると、山田の芝居が異常です。明らかに怒りによるハイテンションが見受けられます。「これは、この後一体どうなるのだ」と私は冷静を装いながらも冷や冷やしていました。
 舞台下に潜んでいる時とは対照的です。「このまま時間が止まってしまえばいいのに」とロマンチックなことを思っている私などお構いなしにカーテンコール、公演は終了しました。


 バラシ(片付け)が始まります。山田は今まで見せたことがないほどにピリピリした態度で、ものすごい怒りの表情で、血走った目で、しかし黙っています。他の役者たちも妙な空気に気を使っているようです。売込隊史上、かつてないほどの何とも言えない緊張感が漂います。バラシを手伝いに来てくださった劇団衛星の方々とも何だかギクシャクです。お気楽ショートストーリーのパンフレットに「餃子2千個食えずに解散」などと嘯いていましたが、今、まさにその危機に瀕していると感じました。私は責任を分散させるため、舞監と照明の三栖さんを共犯者として捕まえました。「一緒に謝って」と、情けないことを言って、私は鬼・山田に謝りました。思う存分言い訳をしました。「度が過ぎるトン」山田は鼻息荒く私に殴りかかりました。「いくらでも殴ってくれ!」「いくらでも殴ってやるトン」山田
は得意のフックフックチョップのコンビネーションで私を容赦なく叩きのめしました。明け方まで殴りつづけ、山田もどうにか落ち着きました(冗談です、殴られてません)。ようやく和解。一件落着です。劇団員たちに安堵の笑みがこぼれます。「どうなるのかと思った」という声もあがりました。私も青い顔でニヤニヤ笑って、なんとかこの場をやり過ごしました。

 このことを冗談として書ける日が来るなんて、私は夢にも思っていませんでした。あの一件で、私は心から反省しました。心から反省しながら、私は今回の「ムラスズメ」の舞台にも穴を作ってみました。